妻(夫)の借金は、原則として本人だけのものです。多くの場合、配偶者に返済義務はありません。
ただし配偶者が連帯保証人になっている場合や、夫婦生活に必要な費用を借金した場合などは、例外的に夫や妻にも返済義務が生じます。
本記事では配偶者に返済義務がない場合とある場合、妻(夫)の作った借金に対してどうすれば良いか見ていきましょう。借金をして繰り返さないために、有効な対策も紹介します。
家族の将来を守るためにも、ベストな方法を選択してください。
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妻(夫)の借金を支払う義務はない
妻(夫)の借金はあくまで本人のものであり、原則として配偶者に返済義務はありません。結婚して生計を共にしていても、借金の契約は個人で結ぶものです。
例外的に配偶者に返済義務が生じるケースはある
例外的に、配偶者である夫(妻)に返済義務が生じるケースは以下のとおりです。
詳しく見ていきましょう。
妻(夫)の借金の連帯保証人になっている
妻(夫)の連帯保証人になっている場合、配偶者にも返済義務が生じます。
連帯保証人とは、借金の契約者本人と同じく返済義務を負う人のことです。契約者本人に返済できる余裕があったとしても、借入先から返済を求められたら拒否することはできません。
一方、保証人は契約者本人の財産を差し押さえてもなお返済できない場合に、返済義務が発生します。
ただし自分が保証人や連帯保証人になった覚えが一切なく、妻(夫)が勝手に自分を保証人として設定していた場合は、返済義務がありません。契約そのものが無効になるため、請求には応じず借金問題に強い弁護士事務所へ相談しましょう。
自分の意思で契約したわけではないことを証明するためのサポートをしてもらえます。
配偶者名義で借金している
妻(夫)が、配偶者である自分の名義で借金していた場合、返済義務は書類上契約者の自分にあります。
ただし妻(夫)がこちらの同意を得ず勝手に借金をしていた場合、その契約は無効です。請求には応じず、債権者に契約が無効であることや支払いの意思がないことを、内容証明郵便で通知しましょう。
それでも借入先が督促を続ける場合は、裁判で「債務不存在確認請求」が必要です。自分に債務がないことを証明するにはあらゆる証拠や主張が必要となるため、借金問題に強い弁護士事務所へ相談することをおすすめします。
住宅ローンなど夫婦共同の費用として借り入れている
借金の理由が夫婦で共同生活を営むためのものである場合、配偶者にも返済義務が発生します。
このような借金は「日常家事債務」と呼ばれ、民法第761条でも夫婦2人で責任を負うことが明記されています。
(日常の家事に関する債務の連帯責任)
引用:民法第七百六十一条|e-Gov法令検索
第七百六十一条 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
日常家事債務に該当するのは、具体的に以下のような借金です。
- 住宅ローン
- 公共料金を払うための借金
- 食品や生活必需品を買うための借金
- 子どもの養育(習い事等)のための借金
- 教育ローン
- マイカーローン など
闇金から借金している
闇金は違法な組織であり、一般的な常識は通用しません。そのため契約者本人が返済できないとわかれば、契約内容に関係なく配偶者や親族に督促をしてお金を巻き上げようとする場合があります。しかし闇金からの借金はそもそも契約自体が無効です。そのため、返済を求められても応じる必要はありません。督促がしつこい場合は、弁護士や司法書士に依頼すれば闇金との縁を切れます。
妻(夫)の借金への対処法
妻(夫)の借金が発覚したら、まずは以下の情報を確認しましょう。
- 借金の総額
- 借金の借入先
- 借入先ごとの金額内訳
- 保証人・担保の有無
- 延滞の有無(延滞料金や遅延損害金の金額)
- 訴訟を起こされているかどうか
借入先の会員ページや請求書、督促状などを見れば上記の情報は確認できます。しかし契約者である妻(夫)本人が借金の内訳を把握できていない場合、以下の方法で確認しましょう。
- 信用情報機関に情報開示請求をする
- 弁護士や司法書士事務所に調査依頼する
- 探偵に調査依頼する
信用情報機関とは個人のお金に関する情報を保有する機関で、CIC・JICC・KSCと3つの機関が存在します。
500〜1,000円で借金の情報を開示してもらうことが可能です。借入先が多く複雑な場合は、相談料無料の弁護士や司法書士に調査依頼するのもおすすめです。
借金の情報がわかったら、妻(夫)と今後どうしていくべきか以下の流れで考えていきましょう。
1.本人に返済させる
妻(夫)に経済的な余力がある場合、本人に完済させるのがおすすめです。自身が作った借金は自分で完済することで、お金の重みや大切さを身をもって実感してもらえます。
2.配偶者や親族も協力して返済
本人に経済的な余裕がなく、新たな借り入れや審査に通らない状態の場合は、配偶者や親族が協力して返済を進めていくのも1つの手段です。
夫婦の収入だけではどうにもならない場合、借金した本人側の両親や兄弟を頼ってみるのもアリでしょう。周囲を巻き込んで借金問題を解決することで、反省するきっかけを作れます。
ただし周囲が金銭的に援助すると、簡単に借金を返済できてしまうのが難点です。
結果的に「もう1回借金をしてもどうにかなるだろう。」と思い、借金を繰り返す人もいます。
肩代わりした分は借用書を作成
配偶者や親族が肩代わりする場合、借用書を作成しましょう。理由は主に2つあります。
- 年間100万円以上肩代わりすると贈与扱いになり、贈与税が発生するため
- 借金した本人に債務の存在を認めさせるため
肩代わりした金額が年間100万円を超えると、贈与税が発生します。贈与税の税率は20%。たとえば200万円肩代わりした場合、40万円の贈与税がかかるのです。一方借用書を作り「身内からの借金」という形にすれば、贈与税はかかりません。
借用書を作ることで本人に借金をした実感を持たせることができます。
また万が一将来的に離婚する際、借用書があれば肩代わりした分を請求できるのもメリットの1つです。
3.借金をまとめて返済しやすくする
複数社から借り入れがあり、本人がまだ他社の借り入れを利用できる場合「おまとめローン」で借金をまとめましょう。おまとめローンとは、いわゆる借り換えです。複数社の借金を金利の低い一社にまとめることで、利息分の支払額を抑えられます。
また返済状況も管理しやすくなるため、ぜひ検討してみてください。
4.債務整理して借金を減額または免除
借金をした本人にも配偶者にも経済力がなく、返済がままならない場合は債務整理を検討しましょう。債務整理とは経済的に困窮している人の債務負担を軽減する法的な手続きで、以下3種類の方法があります。
任意整理 | 個人再生 | 自己破産 | |
---|---|---|---|
特徴 | 利息を減額 もしくは免除 毎月の返済計画を 見直しできる | 利息だけでなく 借金の元金を 最大10分の1まで減額 | 借金全額の返済を免除 |
手続き期間 | 3~6ヵ月 | 1~2年 | 6ヵ月~1年 |
ブラックリスト 登録機関 | 5年 | ~10年 | ~10年 |
こんな人に おすすめ | 利息の支払いに 苦しんでいる 返済計画を 見直せば返済可能 | 借金の元金を減らさないと 返済が難しい 家を手放したくない | 返済の目途が まったく立たない 収入がない |
債務整理の費用相場や、安く実績も豊富な弁護士・司法書士事務所については以下の記事をご覧ください。相談料無料の事務所も数多くありますよ。
自己破産は車や家を失う可能性がある
自己破産は自分の預金や財産を手放す代わりに、借金の返済義務を免除する制度です。
そのため自己破産する借金はなくなりますが、同時に家や車といった財産を失う可能性もあります。そうなると配偶者の生活にも大幅に影響が出るでしょう。
家財を残して借金を大幅に減額したい場合は「個人再生」がおすすめです。ただし個人再生は手続きが複雑で時間もかかるため、債務整理に強い弁護士や司法書士事務所に相談しましょう。
5.離婚を検討
離婚は双方が同意すれば、任意のタイミングで可能です。これを協議離婚と呼びます。
相手が離婚に同意しない場合、調停という手続きに移りましょう。調停は住所地を管轄する家庭裁判所へ離婚希望者が申立て、裁判所を介して離婚に向けた話し合いを進める手続きです。
お互いの意見をそれぞれ裁判所の調停員が聞き取り、離婚の条件等をすり合わせながら手続きを進めていきます。基本的に3~4回家庭裁判所へ赴く必要があり、調停が成立するまでには4ヵ月〜1年です。
もし調停でも離婚が成立しなかった場合、離婚訴訟という形で家庭裁判所へ訴えを提起しましょう。なお離婚訴訟は1〜2年かかるのが一般的です。
裁判では法定離婚事由が認められるかどうかがポイント
裁判では、妻(夫)の借金が法定離婚事由として認められるかどうかがポイントです。法定離婚事由とは、離婚に相当する理由のこと。民法で以下のとおり定められています。
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
引用:民法第770条 | e-Gov法令検索
妻(夫)の借金は上記のうち5つめの、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」に分類される可能性があります。この法定離婚事由として裁判上で認められるには、以下のポイントを訴えていく必要があります。
- 借金の金額や期間
- 家計への影響
- 子供や親族への影響
- 借金解消に向けて行なった対策と効果
- 婚姻関係を続けていくことが困難である事実 など
上記の訴えに加え、離婚訴訟には、離婚費用の計算や住宅ローンといった各種債務の相殺など複雑な計算が必要です。有利かつスムーズに裁判を進めるためにも、離婚関係に強い弁護士に代理人を依頼すると良いでしょう。
妻(夫)の借金を予防する対策
今後、妻(夫)の借金を予防するおすすめの対策は、以下のとおりです
お金のことを夫婦で話し合うのは、気まずいと感じる人もいるかもしれません。しかし一緒に生活していくうえで借金は大きな弊害になります。同じことが二度と起きないよう、この機会にしっかりと対策をしていきましょう。
夫婦で1つの財布にする
夫婦で1つの財布にするとお互いの収入や支出がクリアになり、家計の管理がしやすくなります。またお互いの支出を確認できる状態が、借金の抑止力となるはずです。
また夫婦別の財布で毎月貯める金額を決めるよりも、財布を1つの財布にして毎月のお小遣いを固定した方が支出が抑えられて貯金もしやすいでしょう。
やり方は簡単。まずはお互いの収入を明らかにし、1つの口座にまとめて入れましょう。新たに貯金用の口座を作るもよし、どちらかの既存の口座にまとめてお金を入れても問題ありません。その中から生活費を払い、お互いのお小遣いを差し引いていくだけです。 株式会社スマートバンクの調査によれば「2人で家計を管理している」と回答した夫婦が47.9%と全体の約半数でした。
2人で当事者意識を持って家計を管理すれば、妻(夫)の浪費癖や借金癖を直す練習にもなるでしょう。
積立てを始める
「お金があるとつい使ってしまう…。」という人は、積み立てがおすすめです。
積み立てとは、毎月一定額を積み立てて資産運用するというもの。毎月自動的に一定額が口座から引き落とされるため、手元に自由なお金がない状態を作れます。
また積み立ては運用がうまくいけば利益が出るため、将来の備えにもおすすめです。自分たちの資産を増やすなら積み立てNISA、子どもの学費を貯めるなら学資保険といったように、目的に応じて投資先を選びましょう。
貸付自粛制度や自己申告プログラムを利用する
貸付自粛制度に申し込んでおけば、自ら強制的に借金できない状態を作れます。もし魔がさして借り入れを申し込んでしまっても、審査が下りずお金は借りられないため、借金の予防策に最適です。
申込方法は簡単。住所、氏名、生年月日が確認できる書類2点を用意したうえで、本人が下記窓口で手続きしましょう。
0570-051-051
受付時間:9:00~17:00(土・日・祝休日・12/29~1/4を除く)
Web申し込み
またお金がなくてもパチンコ店に足を運んでしまう人は、自己申告プログラムへの申し込みがおすすめです。自己申告プログラムとはギャンブル施設への入店、遊戯時間、金額などを自ら規制できる制度です。
申し込みガイドや店舗検索は自己申告プログラム公式サイトをご覧ください。
ギャンブルや買い物などの依存症を治療する
ギャンブルや買い物がどうしてもやめられない人は、依存症になっている可能性があります。ギャンブル依存症の人は日本だけでも70万人いると推計されており、珍しいことではありません。依存症専門外来を受診し、適切な治療を受けましょう。
なおギャンブル依存症の治療は、2020年より健康保険の適用対象となりました。また以下のとおり、専門医による治療プログラムは脱ギャンブルに確かな効果があるとわかっています。
自分の意志だけに頼らず、専門機関を受診するのも借金癖を直す近道です。
妻(夫)の借金に関するQ&A
では最後に、妻(夫)の借金に関するよくある質問を見ていきましょう。
- 夫が妻の借金の借り換えをすることはできますか?
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夫が妻の借金の借り換えをすることはできません。借金はあくまで借りた本人のものです。
ただし、夫名義で新たに借金をし、そのお金を妻に贈与する形で妻の借金を肩代わりすることはできます。
- 借金が原因で離婚する場合、慰謝料はとれますか?
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借金が原因で離婚する場合、慰謝料を取れる可能性はあります。ただし相手に、慰謝料の支払い能力があるかどうかは別問題です。
借金の返済に困っている妻(夫)に対して慰謝料を請求するのは、あまり現実的ではない可能性があります。
- 借金が原因で離婚する場合、親権はどちらになりますか?
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借金が原因で離婚する場合、親権は協議により決定します。なお親権は親の経済力だけでなく子ども側の利益も考慮されるため、借金していなかった方が親権を取りやすいとは限りません。
- 借金は踏み倒せますか?もしくは帳消しにする方法はありますか?
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闇金からの借金には返済義務がないため、踏み倒しても問題ありません。
しかし消費者金融やキャッシングで借りたお金は、原則として債務整理しないと帳消しにはできません。債務整理のなかで借金を帳消しにできるのは自己破産のみです。
借金の時効まで返済を踏み倒すという手もありますが、踏み倒す前に訴訟を起こされる可能性が高いため、現実的ではありません。
- 妻の死後に借金が発覚した場合はどうすれば良いですか?
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預金口座や不動産などの財産と借金のどちらが多いか考慮し、負の財産のほうが多ければ相続放棄がおすすめです。相続放棄すれば、妻の借金を支払う義務はなくなります。なお相続放棄は相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に手続きする必要があります。
返済義務がなくても妻(夫)の借金は協力して解決しよう
妻の借金は、基本的に夫に返済義務はありません。ただし、契約内容や借金の用途によっては例外的に夫に返済義務が課される場合があります。
また夫婦で財布を別にしていても、借金の額が大きくなればなるほど家計に及ぼす影響は大きくなるものです。個人の債務だからと他人事に捉えるのではなく、今後どのように家計をやりくりしていくか2人で話し合うことをおすすめします。
借金を清算し、この機会にしっかりと話し合えれば将来のお金の不安も解消できるでしょう。